舞台の終盤にさしかかるときだった。演出家の中澤陽が椅子から立ち上がり、舞台奥の、観客から見て正面にあるカーテンを取り外すと、かなり大きめの窓が現れて、その向こうにはベランダと呼ぶには広すぎる空間があり、さらにその先には会場となった祖師谷の…
親しい風景たちの中でさえ 世界の豊かさは難解だ ―谷川俊太郎『六十二のソネット』より 風景は歩くことで変化する。 どんなに見慣れた風景も、はじめてみる風景も、歩くことで刻々と風景は移り変わる。どんな風景も、ひとつとして昨日とおなじ風景というもの…
ヒヤシンスしあわせがどうしても要る この句は若手の俳人、福田若之の代表句である。この句に関する俳人の佐藤文香と上田信治の解説を少し引用してみたい。 佐藤 この句も、「しあわせが要る」に「どうしても」をどうしても入れなきゃいけない。「どうしても…
なにかに触れようとする姿は、祈りの姿に似ている。 閉ざされた部屋に閉じ込められた三人の男たち。鍵はあるのに扉は開かず、窓はあるのに高すぎて手が届かない。舞台の四隅には監視カメラが不気味にそそり立ち、彼らの姿を映しとる。なぜ部屋に閉じ込められ…
人は誰しも少しずつ変である。 「変」というのはいわゆる「変人」とか「狂人」とかいう意味ではなく、自分(他者)と他者(自分)とは異なる人間である、という意味において、人は誰しもが誰とも変でありうる。 だが、この「変」というのはいくらかの恥ずか…
高須賀真之です。 このブログでは主に劇評を書いていきたいと思います。 よろしくお願いいたします。